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平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【1】

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第29回 国宝松本城氷彫フェスティバル


2015年1月11日

長野県松本市
国宝松本城。

気温摂氏2度。

湿った雪が降っている。

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当初の予報よりもやや気温は高めだが、
夜半にかけて氷点下の冷え込みは確実のようだ。

大雨のなか戦われた昨年の大会に比べれば
コンディションは格段に良い。

まずは安堵する。

午後5時20分。

走り回る重機のエンジン音と排気ガスの匂い、
ひび割れた場内アナウンスの音。

大会スタートに向けて
喧騒に包まれる会場。

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今大会の出場チームは、国内外から13組。

午後6時から翌朝6時まで、夜通し12時間にわたって氷彫刻を制作し、
その出来を競う。

松本城のお堀に沿って横一列に設けられた作品制作スペース。

その中央に平田親子の姿があった。

帝国ホテル専属の氷彫刻職人である父、謙三さん。

その謙三さんを父に持ち、自らもホテルニューオータニの氷彫刻室長を務める浩一さん。

「親子鷹」とも称される、氷彫刻界の星だ。

その親子が大会開始を前に、

心なしか険しい表情を浮かべている。

a0155104_21415258.jpg


作業の準備を進める浩一さんに声をかける。

多忙な時間帯で、迷惑になってはいけないと思い、
頑張ってください、と取り急ぎの挨拶を交わす。
氷彫刻が出来上がったらまた話を聞こう、と思っていたところで
口を開いたのは浩一さんだった。


「大アクシデントなんですよ。実は、図面がなくなっちゃって」

耳を疑う。

今日作るべき氷彫刻の、設計図面がない。

「だから、今回はちゃんと作れるかどうか・・・」

その時私は、
会場入りした直後に流れた場内放送を思い出した。

設計図の落し物を探しています。
クリアケースに入っている手描きの図面です。

確か、アナウンスはそう告げていた。

その「設計図の落し物」とは、平田親子のものだったのだ。

ことの重大性は、ここ数年の大会を見ているのでよく分かる。

浩一さんは氷彫刻を作るにあたり、常に、きわめて精密な設計図を描く。

1チームに与えられる15本の氷柱。
それらをいかに無駄なく切り分け、組み合わせ、
そこにどのような細工を施すのか。
要となる作業はすべて、その設計図に従って進められていた。

数年前、この大会で制作した『龍』。
その設計図は、龍の全身を覆う一枚一枚のウロコまでもが描き込まれた
驚くほど細密なものであった。

設計図は、平田彫刻の屋台骨だ。

その設計図がどこにも見当たらない。

この日、松本入りした平田親子は車を駐車場にとめ、
スタッフの手を借りつつ、機材を会場へと運んだ。
会場と車を数往復した後、機材を確認したところ
その中にあるはずの設計図がなくなっていた。

「探したんですが見つからないんですよ。風で飛ばされちゃったのかも」

大会のスタートは刻一刻と迫っている。

「図面がないと、ちょっと厳しいかな」

浩一さんは顔を曇らせる。

驚きで二の句を継げないでいる私に、浩一さんは
これから準備があるので、と言って会場の奥へと消えた。





午後5時38分。

浩一さんの手にはよれた茶封筒があった。

そこには細く薄い鉛筆の線が
荒々しく幾重にも交差している。

浩一さんが
「急遽思い出しながら描いた」
と話していた、即席の設計図に違いない。

いつもの図面とは似ても似つかない、
殴り描きの設計図。
いつもなら微に入り細に入り書き込まれている寸法も書き込まれてはいない。

それでも今はこの茶封筒に走らせた鉛筆の線だけが
唯一の手がかりなのだ。

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傍らで、謙三さんは淡々と準備作業を続けている。

a0155104_21413960.jpg


波乱の幕開けを後押しするように
猛烈な雪が降り始めた。

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視界が利かなくなるほどの雪。
辺りが瞬く間に白く染まっていく。

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開けた工具箱の中にも
容赦なく雪が吹き付ける。

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いよいよ、製作開始の時間が迫る。

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午後6時、製作開始。
気温摂氏0.3度。

これから12時間に渡る氷との戦いが始まる。


a0155104_21405894.jpg





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氷の切り分け作業。

いつもなら、設計図を見ながら
流れるようなスピードで作業が進むのだが、
今回は勝手が違う。

一歩一歩手順を踏みながら
手探りの作業が続く。

a0155104_21403236.jpg


1チームに与えられる氷柱は15本。

1本の重さは約135キロ。

切り分けたとしてもひとつ数十キロはある。

組み上げも二人がかりの重労働だ。


a0155104_21402977.jpg





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氷の隙間にノコギリを入れる。

氷の表面の凹凸を解消し、
ノコギリ挽きで出た氷の粉が氷同士の接着剤として働く。


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氷の表面を削る謙三さん。

氷を組み上げる前に、表面の汚れや曇りを大ノミで削り落とす。

この作業を怠ると、完成した彫刻に汚れの筋が入ってしまう。

あの透明感溢れる彫刻は、こういう地道な作業に支えられている。

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記憶を頼りに、
氷にメジャーを当てる。

寸法取りを誤れば、作品は完成しない。


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作業開始から約1時間。

氷が目の高さまで組み上がる。


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筋彫りが始まった。

いつもなら手元の設計図を氷に「写す」作業だ。

しかし、今回は氷の上に一から設計図を「描く」。


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時計は午後7時を回った。

筋彫りを施された氷塊。

この氷塊はどんな姿に形を変えるのか。

その答えはまだ、浩一さんしか知らない。


a0155104_21393330.jpg



はたして今回の彫刻は最終形まで辿り着くことができるのか。

これまでの大会でも、ハラハラさせられる局面があるにはあった。

しかし、今回はその比ではない。


【2】に続く~


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by TamaWakaba | 2015-02-27 22:15 | 氷彫刻 | Trackback
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