▼ 

<   2011年 02月 ( 16 )   > この月の画像一覧

 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【1】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 

第25回 国宝松本城氷彫フェスティバル



夏目漱石『夢十夜』に仏師、運慶の話がある。

―運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、
鑿(ノミ)の歯を竪に返すや否や斜すに、上から槌を打ち下した。

堅い木を一と刻みに削って、厚い木屑が
槌の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっ開いた
怒り鼻の側面がたちまち浮き上がって来た。
(中略)
「よくああ無造作に鑿を使って、
思うような眉や鼻ができるものだな」

と自分はあんまり感心したから独言のように言った。
するとさっきの若い男が、

「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。
あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、
鑿と槌の力で掘り出すまでだ。
まるで土の中から石を掘り出すようなものだから
けっして間違うはずはない」


と云った。

(夏目漱石『夢十夜』より抜粋」)

稀代の仏師運慶の、超絶的な腕の冴えを
見事に形容した逸話である。

今氷彫フェスタにおいて、堂々の金賞を受賞した
平田謙三・浩一父子による
『龍』。

『夢十夜』で運慶の手練を評した男が、
この夜、氷彫製作会場にいたのなら、
彼はきっと言うであろう。

「氷の中には、一頭の龍が埋まっていて、
それをノミの力で掘り出すのだ」

と。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2011年1月29日、午後6時。
それはまだ、10個余りの氷塊に過ぎなかった。


a0155104_17305727.jpg



「平田親子」というフレーズには覚えがあった。
確か、去年の氷彫フェスタにも出場していた筈だ。

去年の作品をひと通り思い浮かべながら、
さて、平田親子はどんな作品を彫っていただろうか、
と考えるのだが、はっきりしない。

そもそも、平田親子とは何者なのか、
この会場で、平田親子チームがどこにいるのか、
実はこの時、私はまだ知らかったのだ。


a0155104_17305455.jpg



今回、氷彫フェスタを夜通し撮影するに当たって、
私にはある考えがあった。
それは、「氷彫が出来上がるまでの過程」を撮影すること。
特に、受賞作品について、作品とその製作者の奮闘に迫ること。

しかし、そこには立ちはだかる問題があった。


a0155104_17304992.jpg



この大会において、作品タイトルと製作者が表示されるのは、
氷彫が完成してからなのである。
つまり、予備知識がなければ、
どこで誰が何を作っているのかすら分からない。

誰が優勝しそうなのか、
そういう予想を立てることさえ不可能なのである。

そこで私は、苦肉の策に出た。

後で誰が優勝しても特集できるよう、まんべんなく撮ろう。
そう考えたのである。

a0155104_1730479.jpg


競技開始のアナウンスとともに、手探りで撮り始めた。
誰もが氷塊は扱い慣れているらしく、
まだどのチームにも顕著な違いは見当たらない。

しかし、
開始から1時間ほど経過した頃だっただろうか。

私は会場中ほどに、
やけに目を引く被写体があることに気づく。


a0155104_17304379.jpg


その人は、
瓶ビールのケースを並べた作業台に
積み上げ接着された3本の氷塊を前にして、

光るノミを片手に
動物の頭部らしき物体を彫り出しにかかっていた。


a0155104_17304140.jpg


驚くべきは、
その迷いなき動作であった。

まるで事前にプログラムされた、
全自動切削マシンかのような精密さで
操られる光るノミ。

単なる矩形の物体であった氷塊が、
いま、めまぐるしいスピードで
複雑な曲線を宿す造形物に変貌しつつあった。


a0155104_17303899.jpg




a0155104_17303690.jpg



さらに驚くことに、
精密さを要求される箇所の切削に
電動チェーンソーを使っている。

見ている方がヒヤヒヤするような、込み入った氷の中を
ガーガーと唸るチェーンソーの歯で何度か撫でる。

するとたちまち、白い砕氷をまき散らしながら、
氷はその姿を変えていく。

まさに、思うがままに氷を操っているのだ。


a0155104_17303261.jpg




a0155104_17302843.jpg




a0155104_1730263.jpg



いつの間にか、その氷塊は
龍の頭部とおぼしき物体に
姿を変えていた。


a0155104_17302457.jpg




a0155104_1730213.jpg



その、鮮やかすぎる手さばきで
氷を刻みつけている彼こそ、

知る人ぞ知る、若き凄腕氷彫刻師
平田浩一
その人なのであった。


a0155104_1730192.jpg


午後8時。
気温、氷点下1.4度。

雪が降りだした。

驚くべき『龍』の全貌は、
まだ、青白い氷塊の中に
閉ざされたままである。

a0155104_17301781.jpg



~ 【2】に続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


by TamaWakaba | 2011-02-27 23:07 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【2】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 


父、平田謙三。

a0155104_10372815.jpg




a0155104_10372581.jpg




a0155104_10372296.jpg




a0155104_1037194.jpg




a0155104_1037179.jpg




a0155104_10371371.jpg




a0155104_10371187.jpg




a0155104_1037841.jpg




a0155104_1037588.jpg



龍の頭部を彫り上げる浩一さんの傍らで、
チェーンソーを手に、
氷塊に立ち向かう
初老の男性。

高速回転する鉄刃から吐き出される
砕氷を全身にかぶりながら
ただ黙々と氷を切り出す。

その表情や所作には
氷彫製作者というよりむしろ
修験道の行者が発散するような、
求道者のオーラを感じる。

平田謙三。
帝国ホテル専属、氷彫刻職人。

『帝国ホテルの不思議』(村松友視 著 日本経済新聞出版社 2010)に、
「消える芸術にいそしむ氷彫刻の左甚五郎」
と題して紹介されている。

同書によれば、
謙三さんは、1943年生まれ。
高校中退後上京し、25年間飲食店で、
料理の付け合せに用いる飾り野菜
(ベジタブルカービング)の職人として働く。

飲食店に氷を納入する業者の勧めで
氷彫刻の世界に足を踏み入れた謙三さんは
人づてに知った氷彫刻大会に出場し、
帝国、オークラ、オータニ等、錚々たるホテルから参戦した
出場者を押さえ見事優勝。

その氷彫製作の腕はやがて
かの帝国ホテルの目に止まることとなる。

氷彫刻職人、平田謙三の誕生であった。

その後、今日に到るまで謙三さんは、
帝国ホテル専属の氷彫刻職人として
日夜、氷彫製作に励んでいる。

30年近く、
氷を造形することだけに
その身を捧げてきた謙三さん。

その求道者のオーラは
そのあたりに源流を発しているのかもしれない。


~ 【3】へ続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 


by TamaWakaba | 2011-02-27 23:06 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【3】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 

気温、氷点下2度。
休みなく製作は続く。

a0155104_13562748.jpg


浩一さんも、父謙三さんと同じく、
氷彫刻職人である。

1968年、東京生まれ。
20歳の時、帝国ホテル専属の氷彫刻職人であった
父、謙三さんの下で修行を開始。
当時すでに氷彫界の雄であった父親から、
氷彫の技を伝授される。

1993年、
謙三さんと親子タッグを組んで出場した
『氷彫刻世界大会』にて
最優秀賞 文部科学大臣賞を受賞。
(以降、現在までに同大会で11回優勝)

そして2003年、
浩一さんはホテルニューオータニに入社。
父のもとで磨いた確かな技術を買われ、
氷彫刻専属のスタッフとなる。

そして、今日に到るまで、
父と並ぶ、日本に数少ない氷彫刻専門の職人として、
ホテルで氷彫製作を続ける傍ら、
各地で開催される
なだたる氷彫大会の表彰台を
ほしいままにしているのである。

(参考:ホテルニューオータニHP「氷彫刻」

a0155104_13562457.jpg




a0155104_13562248.jpg




a0155104_13562083.jpg




a0155104_13561661.jpg



夜半。
気温、氷点下3度。
龍の頭が、
所定の位置に据えられた。


a0155104_13561479.jpg




a0155104_13561143.jpg




a0155104_1356764.jpg




a0155104_1356568.jpg


渾身の作業が続く。

a0155104_1356270.jpg



浩一さんの手による絵コンテ。
龍のウロコの一枚一枚まで描き込んである。

a0155104_13555967.jpg




a0155104_13555265.jpg




a0155104_1355518.jpg




a0155104_13554848.jpg



絵コンテはあるものの、
それに目が通されることは滅多にない。

この二人には
氷塊に埋れている龍が
確かに見えているらしい。

親子は
互いに言葉を交わすこともせず、
龍の「発掘」を続ける。

すでに形を見せている頭が
根を生やすようにして
氷塊が龍に形を変えていく。

まるでそれは、
手品であった。


~ 【4】に続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 


by TamaWakaba | 2011-02-27 23:05 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【4】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


気温、氷点下3.2度。
夜半をとうに過ぎても、手が休まることはない。


a0155104_19493594.jpg



人の背丈をゆうに超える
巨大な龍に
なぜそこまで、
というくらい微細な起伏が刻まれていく。


a0155104_1949813.jpg



一枚一枚、丁寧に彫り込まれた鱗。
今にも、うねうねと動き出しそうな気配を漂わせる。


a0155104_194939.jpg



龍がその身に、大きな球を抱えているのは
製作のかなり早い段階から見えていた。

龍が抱える、という先入観から、
私はてっきりそれが大きな宝珠だと思っていた。
大きな龍が抱える、透明な宝珠。
なかなか絵になるなあ、と予想していた。
ところが、である。
なんとその大きな球は、ノミが入れられ、
くり抜かれ、有機的な曲線が絡みあう、
かご状の球体に姿を変えたのだ。

浩一さんが手にしていた
絵コンテにも、この造形は描かれていなかった。

一体、この龍はどうなるというのか。


a0155104_19485914.jpg



ずっと龍にかかりきりだった浩一さんが
龍を離れて、
そこにあった氷板を
工具でなぞり始めた。


a0155104_19485693.jpg



流れるような曲線が穿たれていく。


a0155104_19485149.jpg



氷板から切り離された曲線。
あの固い氷が、
これほどの柔らかい曲線を描くことになるとは。



a0155104_19484876.jpg




a0155104_19484574.jpg



曲線に炎を当て、滑らかさと透明感を出す。


a0155104_19484266.jpg




a0155104_19484083.jpg



微妙に異なる氷曲線をもう一本。

a0155104_19483562.jpg




a0155104_19483329.jpg



一体何を作っているのか。

a0155104_19483110.jpg



程なく謎が解けた。
そう、
浩一さんは龍のヒゲを作っていたのだ。


a0155104_19482672.jpg



1本目接着。


a0155104_19482330.jpg



2本目。
なんと、コールドスプレーを接着剤として使う。

a0155104_19482034.jpg



製作開始から10時間あまり経過。
いよいよ、龍の完成形が見えてきた。

a0155104_19481850.jpg



~ 【5】に続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


by tamawakaba | 2011-02-27 23:04 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【6】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


完成した『龍』を見つめる謙三さん。

a0155104_932095.jpg



作業台においてあったポカリスエット。

一夜のうちに
凍りついた。

a0155104_931655.jpg



休むまもなく
撤収作業に入る。


a0155104_931316.jpg



工具にお湯をかけながら
丁寧に洗う。


a0155104_931155.jpg




a0155104_93823.jpg


謙三さんの
道具を洗うその所作。

洗っているというよりは、
「湯浴み」させている。

まるで、
道具達の労をねぎらうかのように。

自分の手足となってくれた、
道具たちを慈しむかのように。


a0155104_93547.jpg



その所作は、
浩一さんも同じだった。

謙三さんの魂は
浩一さんにも
着実に受け継がれている。


a0155104_93324.jpg



無言のうちに行われる
その儀式を、
神聖な気持ちで
ファインダー越しに見守る。


この道具達への接し方。

氷彫に賭ける親子の
核心に
少しだけ、近づけた気がした。


a0155104_9306.jpg




a0155104_925690.jpg




a0155104_9253100.jpg



華麗にライトアップされる氷彫達に
眼をくれることもなく、
淡々と片付けを続ける二人。

その背中は
仕事をやり遂げた
職人の矜持を
湛えているように見えた。


a0155104_925126.jpg



『龍』を見つめる浩一さん。

写真を撮るでもなく、
誰かと語らうでもなく、

ただ、その目に焼き付けているのか。


a0155104_924948.jpg



「それじゃあ、帰りまーす!」
早朝のの会場に、謙三さんの明るい声が響く。


二人の「氷の行者」が
どこにでもいそうな親子に戻る。

笑顔の素敵な
父と子に。


a0155104_924684.jpg



『龍』は、
この二人の魂を
その身に宿しているに違いない。



~ 【7】(最終回)に続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


by tamawakaba | 2011-02-27 23:02 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【7】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】



ライトアップされる『龍』。

a0155104_16321256.jpg





a0155104_16321010.jpg





a0155104_1632762.jpg



やがて朝に。


a0155104_1632364.jpg



朝陽が『龍』に射し込んだ瞬間、
全身がギラギラと光を放った。


a0155104_16314966.jpg





a0155104_16382798.jpg






a0155104_16314492.jpg





a0155104_16314270.jpg





a0155104_16313936.jpg






a0155104_16313789.jpg


平田親子作
『龍』。

氷彫と一括りにできない
霊気に満ちたその姿。

それは、
二人の氷彫刻家によって
氷塊から発掘され、
一昼夜の間、
この世界で生きることを許された
実在の龍だったのかもしれない。

いま、写真で『龍』を振り返ると、
そんなことを考えずには
いられないのである。

平田謙三・浩一親子は
この作品により
第25回 国宝松本城氷彫フェスティバルで
金賞を獲得した。

~完~


【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


・・・撮影機材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
EOS5D Mark II
EF300mm F2.8 L IS USM
EF70-200 F2.8L II USM
EF50mm F1.2L USM
EF85mm F1.8 USM
全て手持ち



・・・後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

誰が優勝してもいいように、出来るだけあまねく撮るように心掛けたつもりが、
蓋を開けてみれば、総撮影数2000枚のうち、
約500枚を、この『龍』のために費やしていた。

無意識のうちに、シャッターを切ってしまう被写体。
そういう、カメラを引きつける力が、確かにこの『龍』にはある。

そして、この『龍』の作者である平田親子にも、
ただならぬ気迫が漂っていた。

いま写真で振り返るほどに、
「何故にそこまで」
と思う。

ネームバリューに乏しい地方の氷彫大会である。
報酬が出るという話も聞かないし、
大会の結果について、大きく報道されることもない。
不眠不休の12時間に、
製作者の苦労を見届けようというギャラリーは、あまりにも少ない。
あまつさえ、氷である。
極寒の12時間を戦い抜いて作り上げた氷彫は、
その日の夕方までの展示をもって
すべて取り壊されてしまう。

しかし、平田親子の『龍』には、
たった1日で溶けてなくなってしまうという、
氷の儚さやもろさは微塵も含まれていなかった。
細部まで作りこまれながら、生きているような動感を宿す。
これがもし木彫だったら、
きっと長い間、人々の目を楽しませたことだろうと思う。
近い将来に溶けてなくなってしまうものを、
何故にそこまで、と思わずにはいられない。

もう一つ驚いたことがある。
今回の展示場所は、氷彫のすぐ後ろが松本城のお堀になっていた。
つまり、氷彫の裏側は観客には見えない。
氷彫をひとつの展示物と考えるならば、
氷彫の裏側はいわば「省略してもいい部分」なのである。
実際、裏側には何の手も加えていないチームもあった。
ところが、
平田親子チームは、『龍』の裏側も
表側と何ら変わらない丁寧さで作り込んでいたのである。

全編を通して、浩一さんに比べ父の謙三さんはあまり写真に登場していない。
これは、そういう被写体の偏りに気付かず撮っていた、
私の無頓着さに原因があるのは明らかなのだが、
それに加えて、謙三さんが主に『龍』の裏側でノミを振るっていたこともその理由の一つでなのである。
決して人に見てもらえない龍の裏側まで、
淡々と作り込んでいく二人の姿に、私は強く心打たれた。

おそらく、
平田親子にとって、
氷彫の『龍』は、展示物である以前に、
親子の精神を具現化した
『龍』そのものでなくてはならない。
そもそも、表側も裏側もないのだ。

人に見られるか否かに関わらず、
親子の心の中にこの龍はあって、
今回、たまたまその龍が、
氷の姿をまとって現れたにすぎない。

だから、夏目漱石が書いたように、
この親子は
龍を「彫った」のではなく、「掘った」のである。

この氷彫フェスティバルが終わってから、
この親子のことを調べた。

氷彫界では知る人ぞ知る親子であった。
ネット検索でヒットする、大会受賞歴は数知れない。

ここに、その栄光の数々を列挙したくもなるが、
この『龍』の出来栄えをご覧いただけば、
この親子の力量については
誰しもご理解いただけるものと思う。


この『龍』は、すでにこの世に存在していない。
氷の龍は、氷の自性に従い、
1日で溶けて、大きな水の循環に帰した。

この日、人と氷の不思議な縁によって、
天地を巡る水のごく一部が
『龍』の姿でこの世に存在したことを、
この写真によって
多少なりとも伝えることができたら幸いである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大変な長編にお付き合いいただき、ありがとうございました。
お礼というよりは、お詫びすることのほうが多いですm(_ _)m
見る人への配慮を度外視した構成で、
我ながら、ブロガーとしての良識を疑われそうで、恐れおののいています。

当初は「夜通し撮ってやる。夜通し撮れば何かが分かるかも。」という、
向こう見ずな決意と期待からスタートしたこの企画。
しかし撮るにつれ、
「この氷彫たちについて、なんとか記録に残しておきたい」という想いが強くなりました。

氷彫に限らず、
すべてのもの、
たとえ強固な永遠性を有すると思われるものでさえ、
いつかは壊れ、失われていきます。
ものが失われていくと共に、その記憶もまた失われます。

失われゆくことを、多少遅らせることはできたとしても、
それを止めることは不可能です。
いつか全てが変わり、失われていく。

その道理を受忍しつつも、
「せめて、想い出だけは残っていて欲しい」
「せめて、それがこの世界に存在していた証を残しておきたい」
と切実に願うのが人間というものです。

そして、写真というものは、
そういう人間の切実な思いから生まれました。

だから、人間は写真を撮るのでしょう。

私も撮り手の一人として、
そういう人間の思いを大切にしていきたい。
そういう切実さに応えうる写真を撮っていきたい。
最近、そんな風に考えています。

色々と思考の転換期で、ブログ上でも試行錯誤が続くと思いますが、
お付き合いいただければ幸いです。

球わかば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


関連記事
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』・・・・・・・・・・・2011年 第25回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『DRAGON』・・・・・2012年 第26回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田浩一 肥田野雄紀 氷彫刻 『イルカ』・・・・・・2013年 第27回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『遊泳』・・・・・・2014年 第28回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』・・・・・・2015年 第29回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』・・・・・・2016年 第30回 国宝松本城氷彫フェスティバル


by TamaWakaba | 2011-02-27 23:01 | 氷彫刻 | Trackback | Comments(10)
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』 【5】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


製作終了まで
残り1時間。

各チームともに
総仕上げに入る。

a0155104_80936.jpg



気温は下がり続け、
氷点下5度。

工具や服に降りかかった砕氷も
溶けずにそのまま凍りつく。


a0155104_80583.jpg




a0155104_80348.jpg



氷の龍に
炎を当てる。


a0155104_8016.jpg



氷の龍に
湯を浴びせる。


a0155104_7595742.jpg



瞬間的な熱のせめぎ合いによって、
龍の肌は溶け、再氷結し、
いよいよ、神秘的な光を帯び始める。


a0155104_7595465.jpg



仕上げの終盤、
浩一さんが龍の首の下に
ノミを入れていた。


a0155104_7595115.jpg



逆鱗(げきりん)。
龍の下あごに
たった1枚だけ逆向きに生えているウロコ。
龍はこの逆鱗に触れられると怒り狂うという。
「逆鱗に触れる」
の語源である。

もしかすると、浩一さんは
龍製作の最後に、この逆鱗を彫り入れたのではないか。

より完全なる『龍』へ。

見えない場所だけに、
その真相はわからないが、
この龍を見れば見るほど、
そう思えて仕方がない。

いつか機会があったら、
尋ねてみたいところだ。


午前5時50分。

『龍』
完成。

a0155104_7594960.jpg



龍が抱えていたのは
宝珠ではなかった。

網目状の球体の中に
納められていたもの、
それは、
「龍の胎児〈タツノオトシゴ)」
であった。

球体は、
龍の卵なのだった。


a0155104_7594724.jpg



氷彫を極めんとする親子が
力を合わせて
龍の親子を彫る。

そこに込められた想いを
感じずにはいられない。

~ 【6】に続く ~

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】


by tamawakaba | 2011-02-17 23:03 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

木村裕昭 小林義明 氷彫刻 『プロメテウスの戦い』 (1)

第25回 国宝松本城氷彫フェスティバル 銀賞受賞作品

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
プロメテウス。
ギリシャ神話の神。

人類を創造し、民衆に火を与えた。

その行いがゼウスの怒りに触れ
カウカソス山頂で磔にされる。

不死であるがゆえに責め苦は永遠に続く。

しかし彼は
ゼウスの横暴に屈することなく、
民衆を愛しつづけた。

ヘラクレスによって解き放たれた彼は、
数、建築、気象、文字などの知恵を
人類に授けることとなる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今大会で見事銀賞を受賞した『プロメテウスの戦い』を製作したのは、
木村裕昭・小林義明チーム。
木村さんは昨年の大会(リンク先、最後のショット)でも素晴らしい作品を披露されています。

木村さんの本職は「アートカービングデコレーター」。
浦和ロイヤルパインズホテルで
フルーツカービングや氷彫を製作されている
いわばこの道のプロ。
内外の氷彫コンクールでも、
数々の受賞歴をお持ちなのです。

出来上がった作品もさることながら、
氷と向かい合う彼らの表情が
凛として、まさにプロメテウスに見えたのでした。






午後6時、製作開始。

a0155104_2349331.jpg




a0155104_23483113.jpg




a0155104_23482811.jpg




木村さんが見つめる先には・・・

a0155104_23482584.jpg



発泡スチロール製のミニチュア。
さすがカービング職人さんです。

a0155104_23482276.jpg




a0155104_23482053.jpg




a0155104_23481892.jpg




a0155104_23481462.jpg



まさに「真剣勝負」。

a0155104_23481217.jpg




a0155104_23481047.jpg




a0155104_2348544.jpg




a0155104_2348214.jpg




a0155104_23475812.jpg




a0155104_23475629.jpg




a0155104_2347543.jpg




a0155104_2347518.jpg




(2)に続く


by TamaWakaba | 2011-02-13 00:30 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

木村裕昭 小林義明 氷彫刻 『プロメテウスの戦い』 (2)



夜通しの製作が続きます。

a0155104_032384.jpg




a0155104_0323424.jpg




a0155104_0323157.jpg




a0155104_0322975.jpg




a0155104_0322561.jpg




a0155104_032231.jpg




a0155104_0322244.jpg




a0155104_0321837.jpg




a0155104_0321628.jpg




a0155104_0321417.jpg



(3)へ続く

by TamaWakaba | 2011-02-13 00:29 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

木村裕昭 小林義明 氷彫刻 『プロメテウスの戦い』 (3)



完成。
プロメテウスに相応しい、赤のライティングです。

a0155104_041133.jpg




a0155104_0405758.jpg




今にも動き出しそうな躍動感。

a0155104_0405547.jpg




a0155104_0405243.jpg




a0155104_0405079.jpg



細部まで、この作り込み・・・

a0155104_0404685.jpg




a0155104_0404452.jpg




a0155104_0404266.jpg



朝陽を受けて、プロメテウスが輝きます。
木村さんチームの作品は、
朝日を受けると、命が宿ります。
去年もそうでした。

a0155104_040404.jpg



この煌く氷彫にはため息が出ます。

a0155104_0403569.jpg




a0155104_0403157.jpg




a0155104_04029100.jpg


今年も素晴らしい作品をありがとうございました!(´∇`)



金賞受賞作品に続く


by TamaWakaba | 2011-02-13 00:28 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
  -    -  



基本的に何でも撮ります。     ※スマホの方は「PC版表示」での閲覧をおすすめします。
by 球わかば

球わかばプロフィール
リンクについて
著作権及び写真の使用
メディア掲載履歴

最新の記事

イチョウの樹の下で
at 2017-11-17 15:50
上田城跡公園紅葉
at 2017-11-15 00:02
もみじ湖(箕輪ダム)紅葉
at 2017-11-13 13:54
長野市若穂「清水寺」紅葉
at 2017-11-10 23:06
秋光
at 2017-11-06 23:37
名もなきカエデ、雨の紅葉
at 2017-11-04 00:52
ツタウルシの紅葉
at 2017-10-31 01:41
リゾナーレ八ヶ岳 ハロウィン..
at 2017-10-26 00:33
雨垂れ
at 2017-10-23 10:01
奥裾花自然園紅葉
at 2017-10-20 00:21

記事ランキング

カテゴリ

全体
氷彫刻
花火
家でグルメ
外食日記
旅先見聞録
若一王子神社
松川響岳太鼓
イルミネーション
その他の祭・イベント
ニホンカモシカ
安曇野の白鳥
ニホンザル
アマガエル
名犬モモ
イヌ
ネコ
その他の生きもの
飛行機(軍用機)
飛行機(民間機)
夜空・星景・月
空・雲・天候
奈良井宿・妻籠宿
善光寺界隈
戸隠神社
その他の建造物・神社仏閣
自宅にて

梅の花
菜の花
スイレン
ハスとアマガエル
紅葉
その他の草木花
海辺の風景

自然風景その他
街の風景その他

物撮り
組写真的な組写真
ごあいさつ
お知らせ
レンズレビューと作例
その他
仁科濫觴記
写真考

未分類

タグ

(40)
(21)
(11)
(10)
(6)
(5)
(3)
(3)
(3)
(2)
(1)
(1)

以前の記事

2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月

最新のコメント

sarutvさん あり..
by TamaWakaba at 16:09

ブログトップ | ログイン