▼ 

<   2015年 02月 ( 10 )   > この月の画像一覧

 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【1】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】

第29回 国宝松本城氷彫フェスティバル


2015年1月11日

長野県松本市
国宝松本城。

気温摂氏2度。

湿った雪が降っている。

a0155104_2142833.jpg


当初の予報よりもやや気温は高めだが、
夜半にかけて氷点下の冷え込みは確実のようだ。

大雨のなか戦われた昨年の大会に比べれば
コンディションは格段に良い。

まずは安堵する。

午後5時20分。

走り回る重機のエンジン音と排気ガスの匂い、
ひび割れた場内アナウンスの音。

大会スタートに向けて
喧騒に包まれる会場。

a0155104_2142054.jpg


今大会の出場チームは、国内外から13組。

午後6時から翌朝6時まで、夜通し12時間にわたって氷彫刻を制作し、
その出来を競う。

松本城のお堀に沿って横一列に設けられた作品制作スペース。

その中央に平田親子の姿があった。

帝国ホテル専属の氷彫刻職人である父、謙三さん。

その謙三さんを父に持ち、自らもホテルニューオータニの氷彫刻室長を務める浩一さん。

「親子鷹」とも称される、氷彫刻界の星だ。

その親子が大会開始を前に、

心なしか険しい表情を浮かべている。

a0155104_21415258.jpg


作業の準備を進める浩一さんに声をかける。

多忙な時間帯で、迷惑になってはいけないと思い、
頑張ってください、と取り急ぎの挨拶を交わす。
氷彫刻が出来上がったらまた話を聞こう、と思っていたところで
口を開いたのは浩一さんだった。


「大アクシデントなんですよ。実は、図面がなくなっちゃって」

耳を疑う。

今日作るべき氷彫刻の、設計図面がない。

「だから、今回はちゃんと作れるかどうか・・・」

その時私は、
会場入りした直後に流れた場内放送を思い出した。

設計図の落し物を探しています。
クリアケースに入っている手描きの図面です。

確か、アナウンスはそう告げていた。

その「設計図の落し物」とは、平田親子のものだったのだ。

ことの重大性は、ここ数年の大会を見ているのでよく分かる。

浩一さんは氷彫刻を作るにあたり、常に、きわめて精密な設計図を描く。

1チームに与えられる15本の氷柱。
それらをいかに無駄なく切り分け、組み合わせ、
そこにどのような細工を施すのか。
要となる作業はすべて、その設計図に従って進められていた。

数年前、この大会で制作した『龍』。
その設計図は、龍の全身を覆う一枚一枚のウロコまでもが描き込まれた
驚くほど細密なものであった。

設計図は、平田彫刻の屋台骨だ。

その設計図がどこにも見当たらない。

この日、松本入りした平田親子は車を駐車場にとめ、
スタッフの手を借りつつ、機材を会場へと運んだ。
会場と車を数往復した後、機材を確認したところ
その中にあるはずの設計図がなくなっていた。

「探したんですが見つからないんですよ。風で飛ばされちゃったのかも」

大会のスタートは刻一刻と迫っている。

「図面がないと、ちょっと厳しいかな」

浩一さんは顔を曇らせる。

驚きで二の句を継げないでいる私に、浩一さんは
これから準備があるので、と言って会場の奥へと消えた。





午後5時38分。

浩一さんの手にはよれた茶封筒があった。

そこには細く薄い鉛筆の線が
荒々しく幾重にも交差している。

浩一さんが
「急遽思い出しながら描いた」
と話していた、即席の設計図に違いない。

いつもの図面とは似ても似つかない、
殴り描きの設計図。
いつもなら微に入り細に入り書き込まれている寸法も書き込まれてはいない。

それでも今はこの茶封筒に走らせた鉛筆の線だけが
唯一の手がかりなのだ。

a0155104_21414641.jpg


傍らで、謙三さんは淡々と準備作業を続けている。

a0155104_21413960.jpg


波乱の幕開けを後押しするように
猛烈な雪が降り始めた。

a0155104_21413326.jpg


視界が利かなくなるほどの雪。
辺りが瞬く間に白く染まっていく。

a0155104_21412682.jpg


開けた工具箱の中にも
容赦なく雪が吹き付ける。

a0155104_21411792.jpg





a0155104_21411062.jpg



いよいよ、製作開始の時間が迫る。

a0155104_2141330.jpg








午後6時、製作開始。
気温摂氏0.3度。

これから12時間に渡る氷との戦いが始まる。


a0155104_21405894.jpg





a0155104_21403863.jpg



氷の切り分け作業。

いつもなら、設計図を見ながら
流れるようなスピードで作業が進むのだが、
今回は勝手が違う。

一歩一歩手順を踏みながら
手探りの作業が続く。

a0155104_21403236.jpg


1チームに与えられる氷柱は15本。

1本の重さは約135キロ。

切り分けたとしてもひとつ数十キロはある。

組み上げも二人がかりの重労働だ。


a0155104_21402977.jpg





a0155104_2140251.jpg



氷の隙間にノコギリを入れる。

氷の表面の凹凸を解消し、
ノコギリ挽きで出た氷の粉が氷同士の接着剤として働く。


a0155104_21402341.jpg





a0155104_21402098.jpg





a0155104_21401912.jpg




氷の表面を削る謙三さん。

氷を組み上げる前に、表面の汚れや曇りを大ノミで削り落とす。

この作業を怠ると、完成した彫刻に汚れの筋が入ってしまう。

あの透明感溢れる彫刻は、こういう地道な作業に支えられている。

a0155104_21401514.jpg



記憶を頼りに、
氷にメジャーを当てる。

寸法取りを誤れば、作品は完成しない。


a0155104_21401335.jpg





a0155104_2140116.jpg





a0155104_2140972.jpg





a0155104_214072.jpg



作業開始から約1時間。

氷が目の高さまで組み上がる。


a0155104_2140530.jpg



筋彫りが始まった。

いつもなら手元の設計図を氷に「写す」作業だ。

しかし、今回は氷の上に一から設計図を「描く」。


a0155104_2140395.jpg



時計は午後7時を回った。

筋彫りを施された氷塊。

この氷塊はどんな姿に形を変えるのか。

その答えはまだ、浩一さんしか知らない。


a0155104_21393330.jpg



はたして今回の彫刻は最終形まで辿り着くことができるのか。

これまでの大会でも、ハラハラさせられる局面があるにはあった。

しかし、今回はその比ではない。


【2】に続く~


【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】



by TamaWakaba | 2015-02-27 22:15 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【2】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


午後7時。

気温摂氏0.4度。

本体の制作と並行して
別の部品の組み上げが行われている。

a0155104_2281118.jpg





a0155104_2275523.jpg



浩一さんが三日月形に筋彫りを施す。


a0155104_2274865.jpg



その様子を傍らで見守る謙三さん。


a0155104_2273677.jpg


浩一さんが身振り手振りをまじえて
削り方について謙三さんに説明する。

例年なら、それぞれに図面を見ながら黙々と進める作業。
ほとんど親子の会話のないシーンだ。

しかし今回は、
イメージを全て言葉にして謙三さんに伝えなければならない。


a0155104_227311.jpg



説明を聞いた謙三さんが
氷の切削を開始する。

a0155104_2272085.jpg



浩一さんは一つの工程ごとに、自分の作業の手を止めて
細かな構想を謙三さんに伝える。

a0155104_2271120.jpg


その度に謙三さんは作業の手を止め
浩一さんから受け取った言葉を
逐一、形にしていく。


a0155104_227313.jpg



そしてまた、浩一さんが新たなイメージを伝える。

そんなやり取りが幾度となく繰り返される。

作業中に、これほどまで多くの言葉を交わす親子の姿は
いまだかつて見たことがない。


a0155104_2265329.jpg



伝えては削り、また伝えては削り、
作品が完成するまで
そういう作業が延々と繰り返されると思っていた。

しかし、しばらくするとそれまでの会話はなくなり
独り黙々と氷を削る謙三さんの姿があった。

お互いに「言わんとすることはよく分かった」
という境地に至ったのだろうか。

a0155104_2264698.jpg




a0155104_2263096.jpg



ドリルを操り、
氷塊に有機的な曲線を与えていく。


a0155104_2255592.jpg




a0155104_2255182.jpg




a0155104_2254880.jpg




a0155104_2254350.jpg





a0155104_2254110.jpg



作業開始から1時間後。
謙三さんの担当する部品が1つ出来上がった。

a0155104_2253827.jpg



大雪の中、2個めの部品の制作にとりかかる。


a0155104_2253316.jpg



ただでさえ薄い氷に、幾重にもチェーンソーを入れる。
慎重かつ正確な操作が必要だ。


a0155104_2253135.jpg





a0155104_2252987.jpg






a0155104_225277.jpg





a0155104_2252559.jpg





a0155104_225223.jpg





a0155104_2252076.jpg





a0155104_2251016.jpg



この夜、夜半すぎまで
謙三さんは独り黙々と
このパーツを何本も作り続けた。


【3】に続く~



【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


by TamaWakaba | 2015-02-27 22:14 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【3】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


午後7時過ぎ。

他の作業と並行して

本体の氷塊の加工が始まる。



まず、氷塊の側面を大ノミで整える。

a0155104_22214669.jpg


そこにぬるま湯で温めたアルミ板を押し当てる。

アルミ板に触れた氷はたちどころに解け、
アルミ板と同様の平滑な表面となる。

a0155104_22213818.jpg



そこに、同じく断面を平滑にした小さな氷塊を押し当てる。

氷塊の凹凸のない断面同士は互いに密着し、
それ自身に蓄えられた冷気によって凍りつき、
ひとつの氷塊へと融合する。

a0155104_22213063.jpg


大きな氷塊に接着した突起部分に
筋彫りを施す。

もちろん、図面なしのフリーハンドだ。


a0155104_22211874.jpg



チェーンソーでの切削。

大胆な手さばきで
氷がみるみる削ぎ落とされていく。


a0155104_2221641.jpg



手の動きが止まることは全くない。

矩形だった氷が多面体へ、そして曲面立体へと姿をかえる。


a0155104_22205888.jpg



今度は、突起部分の曲面を延長するように
本体の氷塊を削っていく。


a0155104_22205216.jpg



ノミの刃が氷の表面をひと撫ですると
金属のようなギラギラとした光沢の断面が現れる。

浩一さん自らの手によって
全ての刃物は丹念に研ぎこまれている。

a0155104_22204535.jpg




a0155104_22203642.jpg



やがて、大きな氷塊から突き出す
鉤状の形が見えてきた。


a0155104_22195622.jpg




a0155104_22195422.jpg




a0155104_22194924.jpg


さらに、突起部分の曲面を延長していく。

a0155104_2219453.jpg


作品の原型が見えてきた。

間違いなく、何かの頭部だ。

a0155104_22194276.jpg



午後8時17分。

浩一さんの頭の中のイメージから姿を現した造形。

平面図を立体に展開するだけでも容易なことではないはずなのに、

一体どういうことなのか。

ちなみに、この時点で

他のチームはまだ本格的な切削作業に入っていない。

驚異的な作業のスピードにも愕然とする。

a0155104_22194068.jpg


作業の手は止まらない。

頭部の下に接合された氷に筋彫りを施す。

a0155104_22193834.jpg


線にそってチェーンソーで荒削りする。

a0155104_221937100.jpg


さらに、ノミで形を整える。

a0155104_22193412.jpg


この形は・・・

a0155104_22193258.jpg


午後8時20分。

気温摂氏0.3度

再び雪が激しくなってきた。

a0155104_2219309.jpg


数十メートル先も霞んで見えなくなるような大雪だ。

辺りが瞬く間に白くなっていく。

a0155104_22192829.jpg


大雪でも手を止めることはできない。

上着のフードを被って、作業が続けられる。

a0155104_22192612.jpg


午後8時45分。

平田親子が何をつくろうとしているのか、
誰の目にもわかるようになってきた。

相手を見据える表情と鋭い爪先。

間違いなく、
大きな氷のワシだ。

a0155104_22192478.jpg


それぞれの作業を黙々と続ける親子。

a0155104_22192123.jpg


浩一さんが茶封筒の裏に急いで描いた設計図。

すでに役割を終え、
その上には雪が積もり始めている。

a0155104_22191942.jpg


結局この後、この茶封筒が
浩一さんの手に取られることはなかった。



~ 【4】に続く ~



【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】



by TamaWakaba | 2015-02-27 22:13 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【4】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


午後9時。

気温摂氏0.1度。

天候は依然として雪。

各チームの氷はそのほとんどが
まだ矩形を保ったままだ。

図面がなかったせいで、
作業の序盤はかなり手間取った平田親子だが、
開始後3時間の時点で立場は完全に逆転し、
進捗状況は首位に立った。

a0155104_22335755.jpg


ワシの胴体の上で
浩一さんの手が何度も何度も空を切る。

その指先は、これから胴体に生えてくるべき
まだ見ぬ翼をなぞっているように見える。

設計図どおりに部品を作って組み合わせるという
普段どおりの製作過程であれば決して見られない仕草だ。

a0155104_22335125.jpg


空中にメジャーを当てる。
彫刻に使える氷は限られている。

慎重に部品の寸法を判断する。

a0155104_22334329.jpg


翼の接合に入る。

a0155104_22332478.jpg


薄い氷の板を斜めに積み上げるには
形状と強度の両面において
慎重さが求められる。

a0155104_22331582.jpg


浩一さんを謙三さんが補助する。

a0155104_22325426.jpg


1段目の接合が完了。
ここまでおよそ10分。

a0155104_22323644.jpg


2段目の接合に入る。
翼の形状となるよう、1段目とは角度を変えて接合される。

適切な角度となるよう、何度も調整が行われる。

a0155104_22322963.jpg


気温はまだ氷点下にまでは下がっていない。
荷重のかかる接合箇所には
ドライアイスが施される。

a0155104_22314191.jpg


2段目の接合が完了。

2段目の接合に要した時間は20分。
1段目の2倍の時間が費やされた。

翼の先端に近づくほど
作業の難度は上がっていく。

a0155104_22313621.jpg


2段目までを接合したところで、
浩一さんが筋彫りを施す。

a0155104_22313473.jpg


筋彫りの線に沿ってチェーンソーの刃が入れられる。

a0155104_22313292.jpg


翼面の厚みを削ぎ落とす。

大ノミが往復するたびに
平べったかった氷の板が、
生物的なカーブを与えられていく。

鳥の翼は平面ではなく、
翼特有の曲面を有している。
例え設計図があったとしても、
図面には描ききれない微妙な部分だ。

a0155104_22313091.jpg


翼の形、関節の位置、角度、
翼のしなり方。

どれをとっても実にリアルだ。

美術的なアプローチだけではなく、
鳥を生物的に理解していなければ
この造形は成し得ないだろう。

a0155104_22312318.jpg




a0155104_2231211.jpg


観客からは見えない部分にも
手が入れられる。

氷彫刻である以上に
それは「鳥」でなくてはいけない。

浩一さんのこだわりである。

a0155104_2231199.jpg


曲面に仕上げた翼に合わせて、
翼の先端を削り出す。

リアルな氷の翼である分、
本物同様に翼の先端は薄くもろくなり、
そして大きくしなった曲面となる。

比較的頑丈な部分を仕上げ、
最後に繊細な部品を取り付けるという作戦だ。

a0155104_22311741.jpg


接合面を整える。

a0155104_22311445.jpg


右翼先端の接合。

a0155104_22311029.jpg


コールドスプレーで接合箇所を急冷却し、
一気に固める「氷の瞬間接着剤」だ。

a0155104_2231889.jpg


成長し続ける大ワシは
すでに地上高3メートル近い高さにまで達している。

組み上げた氷を足場にしての作業となる。

a0155104_22316100.jpg


左翼先端の接合。

a0155104_2231466.jpg


やはりコールドスプレーを使う。
平田流氷彫刻のお家芸だ。

a0155104_2231212.jpg


午後10時45分。
翼を広げた巨大なワシの全貌が
姿を現した。

a0155104_22305682.jpg



気温は摂氏氷点下1度。

ついに氷が解けない温度域に達した。



~ 【5】に続く ~



【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】



by TamaWakaba | 2015-02-27 22:12 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【5】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


翼の先端の切削が始まる。

a0155104_22492445.jpg


これまでよりも、より薄く、
より大きな曲率に削っていく。

a0155104_22491565.jpg


その浩一さんが乗って作業しているのは
ビール箱を3つ重ねた即席の足場。

傾いているうえに、浩一さんの動きに合わせて
グラグラと揺れ動く。

いつ倒れやしないかと見ている方はハラハラするが、
決して倒れることがない。

いつ見ても謎の技術だ。

a0155104_2249873.jpg


チェーンソーで荒削りした表面を
さらにハンドグラインダーで整えていく。

a0155104_22485587.jpg


頭から細氷粉をかぶりながらの作業。

a0155104_22484181.jpg


表面を整え終えた氷に向かって、
浩一さんがまた手を空中に這わせている。

何をイメージしているのか。

a0155104_22482969.jpg


そこから、これまでとは別の作業が始まる。

翼面に、くまなくハンドグラインダーを這わせる。

a0155104_22482352.jpg


作業時間はおよそ10分。

そこに現れたのは衝撃の光景だった。




a0155104_22481248.jpg


なんと氷の翼には
いつの間にかびっしりと羽根が生えている。


左翼の羽根彫りを終えると、
すぐに右翼にとりかかる。

まず、翼前縁部分の筋彫りを施す。

a0155104_2248781.jpg


その翼前縁に沿って
羽根を一枚一枚刻んでいく。

細いハンドグラインダーの刃を斜めに入れて
あたかも羽根が生えているように彫り出す。

a0155104_2248173.jpg


実際の鳥と同じように、
場所による羽の形の変化も
ちゃんと再現されている。

a0155104_22475585.jpg


今までの作業とは違い、
ひとつ彫り間違えれば、翼もろとも交換するしかない。
もちろん、材料にそんな余裕はない。

決して失敗は許されない。

a0155104_22475015.jpg


羽根の形を彫り出すことだけではない。

それぞれの羽根の表面を凹状に削って
「羽根の薄さ」を再現していく。

部分的ではない。
翼全体の羽根一枚一枚全てを
薄く削っていく。

a0155104_2247355.jpg


息を止めたくなるような繊細な作業が続く中、
浩一さんが、チェーンソーを手にして
翼に向かって振りかざす。

a0155104_2247757.jpg


チェーンソーの荒々しい刃先が削り出しているのは
風切羽根だ。

大まかな作業はチェーンソー、
細かな作業はハンドグラインダーというイメージが覆される。

一見荒々しい工具も、
浩一さんの手にかかれば精密加工機械に変わるのだ。

a0155104_2247590.jpg


けたたましいチェーンソーの唸りのなかで
次々と風切羽根が彫り出されていく。

もちろん、図面はない。
どこにどんな形の羽根が何枚生えているのか。
浩一さんの頭のなかには
それが全部入っているらしいのだ。

迷うことも手を止めることもなく、
プログラミングされた切削マシンの如き速さで
翼一面にみるみる羽根が刻まれていく。

a0155104_2247361.jpg


風切羽根先端の丸みを出す。

a0155104_2247020.jpg


さらに、ミノで余計な厚みを落とし
薄羽に仕上げていく。

羽根の折り重なる様子も完璧だ。

a0155104_22465597.jpg


これで終わりではない。
さらに、羽根一枚一枚の細かな凹凸を刻み込む。

a0155104_22465287.jpg


執拗なまでのこだわりぶり。

a0155104_22464933.jpg


ここでもやはり、
場所によって、筋の方向や本数、深さを変化させている。

a0155104_22464691.jpg


ひょっとしたら、観客は気づかないかもしれない。
しかし、手を抜く様子はない。

執念というしかない。

a0155104_22464497.jpg


羽根の次は、
胴体と頭部にも羽根を彫り込んでいく。

a0155104_22464099.jpg


a0155104_22463884.jpg


外からは見えない首の下への彫り込み。

a0155104_2246365.jpg


羽根彫り作業開始から約1時間、
大ワシの全身は
薄い氷の羽根で
くまなく覆われた。

a0155104_22463463.jpg


風切羽根の先端。

a0155104_22463216.jpg


それは確かに風を掴み、
空へ駆け上がっていく大ワシの
しなやかな翼の切先だ。

a0155104_22462999.jpg



午前0時。

気温摂氏氷点下2度。

分厚い雪雲はいつしか切れ、

下弦に近い月が顔をのぞかせている。


a0155104_22455722.jpg




~ 【6】に続く ~



【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】



by TamaWakaba | 2015-02-27 22:11 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【6】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


三日月型の部品にノコギリが入れられる。

a0155104_2394327.jpg


一体のものとして制作した部品を、
一旦小さな部品に解体して、それを本体の上で再び組み上げる。

普通、大きな部品の運搬は、二人以上で慎重に行われる。
しかし、いつも人足が確保できるとは限らないし、
狭い制作現場を多人数で動き回ることの危険性も高まる。

そんな時、この「分解→再構築」の技を使えば、
他のリスクを回避した上に、単独で大きな部品を移動することができるのだ。

薄く、かつ繊細な部品を壊さずに、確実に組み上げる
平田彫刻の伝統芸なのだ。


a0155104_2393383.jpg


三日月型のパーツは
大ワシの傍らに配置された。

a0155104_2392461.jpg


その配置された部品の曲線を
本体上に延長していく。

a0155104_239967.jpg


a0155104_2385782.jpg


a0155104_2384837.jpg


a0155104_2384159.jpg



大ワシの左脚の制作。

a0155104_2381734.jpg


脚の羽根が生えていない部分はウロコ状に彫られる。
この「ウロコ彫刻」も浩一さんの得意技だ。

a0155104_237468.jpg



左脚を制作する浩一さんの傍らで
謙三さんが、残った氷を本体の側面に積み上げていく。

a0155104_2374479.jpg


それを浩一さんが小さな三日月型に彫り上げる。

a0155104_2374169.jpg


もう一つの三日月形部品は
分解せずに、謙三さんと二人がかりで本体の上に運ぶ。

一つのやり方には固執せず、臨機応変で最適な方法が選択される。

a0155104_2373775.jpg


本体右側に配置された三日月形の部品からも、
本体上に曲線が延長されていく。

a0155104_2373567.jpg




a0155104_2373354.jpg



いくつも配置された三日月形のパーツは
大ワシの翼が巻き起こす波しぶきだった。

a0155104_2372949.jpg


少しでも材料を確保するため、
本体の基部は中空構造になっている。

a0155104_23727100.jpg


観客からは直接見えない
背中の部分にもノミを入れて
全体のバランスを調整する。

a0155104_2372486.jpg


ディスクグラインダーで
波の表面を滑らかに整える。

いよいよ仕上げ段階に入った。

a0155104_2372063.jpg



午前3時45分。

天候晴れ。

気温摂氏氷点下3.1度。

切削作業終了。

a0155104_237183.jpg


表面の凹凸の中に入り込んだ
細氷粉をブロワーで除去する。

a0155104_2371527.jpg


白く霞んでいた氷が
水晶のような冷たく透明な輝きを宿す。

a0155104_2371320.jpg


遠くから見るとわかりづらいが、
波は3層構造に作りこまれている。

この薄い部品の中にも
さらに奥行きが与えられているのだ。

a0155104_2371164.jpg


今にも鷲掴みにしそうな
猛々しい爪先。

a0155104_237910.jpg


氷から生まれたばかりの大ワシが見据えているのは
どんな獲物なのか。

a0155104_237672.jpg





~ 【7】へ続く ~




【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】



by TamaWakaba | 2015-02-27 22:10 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【7】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


作業で出た氷屑。

a0155104_23224387.jpg


作業が大詰めを迎えている午前3時くらいから
謙三さんはこの氷屑の片付けに追われていた。

夜通し氷を彫り続けた身体には
かなり堪える重労働だ。

日本の氷彫刻を牽引してきた謙三さん。
この世界では誰もが認める、やんごとなき重鎮である。

しかし、そんな仰々しい素振りは一切見せず
彫刻を続ける浩一さんを
ただ黙々と補助する。

a0155104_23223675.jpg


タイムリミットである午前6時まで氷を彫り続け、
それから片付けに入るチームも多い。

しかし、平田チームはいつも
時間内に片付けまで完了させる。

a0155104_2322306.jpg


彼らにとっては、
お客に観てもらう準備が整っていなければ
作品が完成したとは言えないのかもしれない。

プロフェッショナルだと思う。

a0155104_2322539.jpg



道具の扱いもそうだ。

a0155104_23222319.jpg


数年前、初めてこの光景を見た時、
これは片付けでなく、「道具を湯浴みさせている」のだと思った。

a0155104_23221216.jpg


氷を彫っている時、
道具は身体の一部だ。

a0155104_23215865.jpg


道具を自分の身体のように慈しむ。
その姿がいつも印象的だ。

a0155104_23214866.jpg


氷を彫り終えた浩一さんが
片付け作業に合流する。

a0155104_23211516.jpg


まだどのチームも氷と格闘している中、、
この親子だけがいそいそと撤収準備を進めている。

それは、なんとも不思議な光景だった。

a0155104_23211220.jpg



午前5時。

気温摂氏氷点下4度。

最終仕上げである表面処理が始まる。

a0155104_2321839.jpg


波しぶきの部分にぬるま湯をかけていく。

a0155104_2321482.jpg


ぬるま湯によって、細かな部分が解け
実際の波に近い、よりランダムで自然な曲線となる。

a0155104_2321125.jpg


さらに、微細な凹凸が解けて滑らかになった氷の表面で
水が再氷結する。

うっすらとかかっていた白い霞みが消え、
硝子のように透きとおった氷に変化していく。

a0155104_23205924.jpg


a0155104_23205756.jpg


翼は、細やかに彫り込んだ羽根の形が損なわれないよう、
油差しを使って、ゆっくりと水を注いでいく。

a0155104_23205126.jpg


a0155104_23204899.jpg


a0155104_23204643.jpg


最後に使うのが
ガスバーナーだ。

a0155104_23204379.jpg


ぬるま湯をかける方法は
効率はいいが、狙った場所以外の氷も解かしてしまうデメリットがある。

そこでガスバーナーの局所的で高い熱量を利用して、
ピンポイントで表面仕上げを施すのである。

a0155104_23204133.jpg


炎で氷を炙るという
不思議な作業が続く。

a0155104_23203925.jpg


いつしかそこには
今にも飛び立ちそうな
凍てつく大ワシの姿があった。

a0155104_23203628.jpg




~ 【8】へ続く ~


【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】




by TamaWakaba | 2015-02-27 22:09 | 氷彫刻 | Trackback
 ▲ 
 ▼ 

平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』 【8】

【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


午前5時20分。

氷彫刻 『2015年 飛翔』 完成。

一晩の闘いが終わった。

a0155104_23375386.jpg


a0155104_23374435.jpg


a0155104_23373589.jpg


a0155104_23372655.jpg


正面から見ると、
あまりの透明度の高さに
頭部が判別できないほどだ。

a0155104_23372221.jpg



午前6時。

作業終了の合図とともに
氷彫刻のライトアップが始まる。

a0155104_23371744.jpg


氷の大ワシには
鮮やかな橙色の光が当てられる。

a0155104_23371347.jpg


まだ完全に調整が済んでいない照明で
生きているように氷が揺らめく。

a0155104_2337880.jpg


羽根の一枚一枚が
風を掴んでざわめいているようにも見える。

a0155104_2337158.jpg



a0155104_23362262.jpg


a0155104_23361767.jpg


波しぶきの部分には
細かなつららが下がり、リアルな飛沫となっている。

a0155104_23361476.jpg


照明の調整が終わり、
燃えるような色に染められる氷の大ワシ。

それは、
絶体絶命のピンチを切り抜けて彫り上げられた
まさに不死鳥だ。

a0155104_2336118.jpg


ライトアップされた氷彫刻を目当てにやって来る観客で
場内は一気に賑やかさを取り戻す。

a0155104_2336953.jpg


東の空は
朝に向かって
ゆっくりと白み始めた。

a0155104_233678.jpg


気温摂氏氷点下5.3度。

a0155104_2336480.jpg


もうすぐ太陽が昇ってくる。

a0155104_2336210.jpg


a0155104_23355323.jpg


a0155104_23354941.jpg


東の山の稜線から
金色の朝日が
一直線に差し込んだ。

a0155104_23354799.jpg


氷の大ワシは
翼の隅々まで光を宿して
ギラギラと輝く。

a0155104_23354578.jpg


観客が口々に驚きの声を上げる。

a0155104_23354289.jpg


氷の大ワシは朝日に向かって羽ばたいているようだ。

その鋭い爪で
見る人の心を鷲掴みにしながら。

平田謙三・平田浩一 作
氷彫刻 『2015年 飛翔』。

第29回国宝松本城氷彫フェスティバル
全国氷彫コンクールにおいて
見事、金賞の栄誉に輝いた。


~ 完 ~



【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】


― 使用機材 ―
EOS5D Mark III
EF300mm F2.8 L IS USM
EF70-200mm F2.8L IS II USM
EF16-35mm F2.8L II USM
Carl Zeiss Makro Planar T* 2/50 ZE
SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
EXTENDER EF2×III

撮影後記

この日、浩一さんは完全な睡眠不足だった。
それはこの松本で夜通し朝まで彫ったから、ということではない。
この大会が始まる時点ですでに寝不足だったのである。

この大会の前日にあたる1月10日の夜、浩一さんは東京の明治神宮にいた。
その日行われた「明治神宮奉納冬季全国氷彫刻展」に選手として出場していたのである。

神宮の大会も、この松本の大会と同じく、夜通し氷を彫り続けて作品を完成させる。
浩一さんは、10日の夕方から11日の朝にかけての13時間、与えられた5本の氷柱を使って、独り不眠不休で作品を完成させた。

ちなみに、この時彫った「飛沫」は、見事優勝に輝いている。

徹夜明けの表彰式を終え帰宅した浩一さんは、ろくに休みもせずにホテルの仕事場に向かう。
そこで、本来ならば睡眠に充てるべき時間の大半を費やして、松本の大会に向けて氷彫刻用の刃物を研いでいたのだという。
その後、浩一さんは父の謙三さんを迎えに行き、その足で遠路松本入りしている。
だからこの日、浩一さんは「うとうとした程度」でほとんど寝ていない身体のまま、再び12時間の徹夜作業に突入したのである。

そういうあり得ない状況の中で、
起こりえないようなアクシデントが、起こりえないタイミングで起こる。

設計図がなくなった、という事実を浩一さんから告げられた時の衝撃は今でも忘れられない。
「さすがに今回はちょっと無理かも」
名だたる氷彫刻の大会を制覇してきたあの浩一さんが弱気になっていた。

これまでの大会では常に、浩一さんは手描きの精緻な設計図とにらめっこして、
最後にはその設計図と寸分違わぬ作品を彫り上げていた。
その様子を幾度も目にしているだけに、
「設計図がない」という事態の恐ろしさはよくわかった。
あまつさえ、完全な寝不足状態での作業なのだ。
弱気になるのも無理はない。

「まあ、できるだけのことはやってみます」

そう言い残して、浩一さんは作業場に入っていった。

浩一さんの言葉どおり、
序盤の作業は遅々として進まなかった。

まず、氷を切り分けるための寸法が分からない。
虚空に何度も手を這わせ、巻尺を何度も空中に掲げてなんとか寸法を決定し、
ようやく氷を切り分けた。

分担して作業を受け持つ父の謙三さんも
設計図がないことに苦戦しているようだった。

いつもならば求められているものを、設計図を見ながら黙ってさっさと作ってしまう。
だが今日は、自らが受け持つ部品のイメージを、浩一さんから逐一言葉で受け取って
自分なりに解釈したものを、氷の上に展開していかねばならない。

いつもの手際の良さは影を潜め、
15本の氷柱を前に四苦八苦する親子の姿がそこにあった。

そんな様子を見るにつけ、
今回ばかりは作品が完成しないかもしれない。
失礼ながら、かなり本気でそう思った。
極度の睡眠不足と、設計図の紛失という悪夢の二重奏。
氷彫刻界で親子鷹と称えられる二人でも、経験したことがないであろう危機だ。

最悪の結末を覚悟しつつ、
苦々しい気持ちで二人を撮り続けるしかなかった。

ところが、である。

作業開始後1時間経ち、2時間経ちするうちに、
不思議なことが起こり始めた。

劇的に二人の作業スピードが上がっている。

それまで頻繁にやりとりされていた会話もほとんどなくなり、
父と子が、それぞれ黙って氷と向き合っている。

そして二人ともに、序盤とは比べものにならない速さで
氷塊から立体を削り出しているのだ。
あまりにも迷いのないその動きに、
もしかすると設計図が見つかったのかもしれない、と思った。
しかし依然として、彼らの手元に設計図は見当たらなかった。

今まで、設計図を片手に氷を彫る姿から、
浩一さんは、制作の現場でその都度、平面図を立体に展開しているのだろうと思っていた。
しかし、どうやらそうではないらしい。
今回、設計図を見ずに細部まで彫り込んでいる浩一さんの頭の中には、
これから形作ろうとしている「立体そのもの」が記憶されているらしいのだ。
それも、おおまかな全体像としての記憶ではない。
翼全体の形。
翼のどの部分に、どんな形の羽根が、どれくらい生えているのか。
風を受けた羽根のしなり具合。
身体のどこに関節があって、その周りの筋肉はどう動くのか。
頭の形、獲物を見据える首の角度、掴みかかろうとする爪の鋭さ、
それらの細々とした要素が全て、頭のなかに入っているらしいのだ。
そうでなければ、あれほどの速さで氷を彫っていくことなど不可能であろう。

以前、夏目漱石『夢十夜』のエピソードを書いた。
手練の仏師にとって、仏像は「作り出すもの」なのではない。
あらかじめ木の中に埋まっている仏像を、
あたかも土の中から石を取り出すようにして、
ノミの力で掘り出すようなものなのだ、と。

まさにそういったことを、
この親子は目の前でやっているのだった。

彼らにとって氷彫刻とはは、現場で考えながら行う作業なのではない。
すでに記憶の中に完全な形で埋まっている彫刻を
氷塊の中から掘り出す作業こそが、氷を彫るという作業なのだ。

いつしか、形勢は完全に逆転していた。

「最初はどうなることかと思いましたけど、かなり出来てきているんで、まだまだ狙えると思いますよ」
休憩のため作業場から出てきた浩一さんから、そんな頼もしい言葉が返ってきた。

それから親子は怒涛の進撃を続け、
作業終了がコールされるおよそ1時間前には
恐ろしく精緻な氷彫刻を完成させ、
さらには撤収作業までをも眈々と進めていたのだった。

これだけ作れるなら、設計図がなくても全く平気じゃないですか、
作業を終えた浩一さんにそう水を向けてみる。

そんなことはない、と彼は言う。
「設計図があれば、もっと波の部分を作りこむことができたんですけどね」
ワシの部分はほぼ完成できたが、波しぶきの部分も合わせれば出来は6ないし7割だという。
もしも設計図がちゃんと手元にあって、無駄のない手順で氷を彫れたなら
さらにレベルの高いものができていただろう、と。
悔しそうに呟く浩一さんと一緒に完成した作品を眺めつつ、
一体、この親子はどれほどのものを作ろうとしていたのか、と思う。

それにしても、2晩徹夜をしてまで浩一さんを氷彫刻に駆り立てるその原動力はなんなのか。
氷彫刻が好きでたまらず、四六時中氷を彫っていたい、ということなのか。
もしそうだとすれば、それを生業にできることはこの上なく幸せなことではないか。

だが意外にも、「仕事はやっぱり大変ですよ」と浩一さん。
浩一さんも父の謙三さんも、大きなホテルの氷彫刻部門をたった1人で受け持っている。
その職場において、二人の卓越した技術は全て「お客に満足してもらうため」に費やされる。
自分の彫りたいものを追求している余裕はそこにない。
常に、他者のために氷を彫ることが求められる。
そういう毎日を送っていると、やはり相当なフラストレーションが溜まるのだ。
「だから、こういう大会は大好きなんですよ」
自分の彫りたいものを、自分のために彫る。
通常の業務では彫ることの叶わない大物に、自分の持つ技術の全てをぶつけていく。
そこがたまらなく好きだ、という。

自分の勤めるホテルから、大会への遠征費を出してもいいと言われている。
年に数回に及ぶ各地への遠征費はかなりの額になるはずだ。
しかし、浩一さんは敢えてその申し出に甘んじることはせず、
すべての費用を自分で工面している。
浩一さんは言う。
そこで会社に頼ってしまえば、自分のための彫刻ではなくなってしまうから、と。

そんな浩一さんを、父の謙三さんは傍らで頼もしそうに見ていた。
浩一さんが20歳、謙三さんのもとで初めて氷彫刻の世界に足を踏み入れた時、
謙三さんはちょうど、現在の浩一さんと同じくらいの歳だった。

今でこそ、超絶的な腕の冴えを見せる浩一さんだが、
駆け出しの頃は、当時すでに氷彫刻の第一人者だった謙三さんに怒られてばかりだったという。

「初めて描いたデザイン画なんか、この下手な絵は誰が描いたんだ、って親父に笑われましたからね」

今でこそ笑い話として語られるエピソードだが、
当時は歯噛みするような毎日だっただろう。

浩一さんはそんな謙三さんの背中を懸命に追いかけ、
謙三さんはみるみる力をつけていく息子に負けじと技を磨いた。

彫った氷の数と同じだけ、氷彫刻師としての自分を刻み続ける日々。

それからおよそ20余年。
謙三さんは日本の氷彫刻界の重鎮に、浩一さんは氷彫刻界のプリンスと呼ばれるまでになった。
「皆には本当に良くしてもらってますよ」
謙三さんは、そう感謝の言葉を口にする。

親子と話している最中もずっと、
彫り上がった氷の大ワシの前には人だかりができ、
口々に感嘆の声が上がっている。

二人の彫り上げる氷彫刻には
人の心を虜にする何かが確かにある。

そしてこれからも、
そんな氷彫刻の数々が
彫り上げられていくことだろう。

平田親子の挑戦は続く。



謝辞

どうして夜通し撮るのか。

1回夜通しで撮ってしまえば、もう後には引けないという理由も確かにある。

しかし、本当の理由はもっと別のものだ。

朝、完成した氷彫刻を目当てに多くのカメラマンが押し寄せる。
場所取りの三脚と人の壁で、身動きができないほどだ。

だが、彼らのほとんどは
その美麗な氷彫刻がどうやって彫られたのか知らない。

氷と一緒に自らの魂をすり減らすような、彼らの過酷な作業に
スポットを当てるカメラマンはまだまだ少ない。

だから、私は夜通し撮る。

凍てつく大気の中、
いずれは消えてなくなる運命の氷に
一瞬の輝きを与えようと懸命になる彼らの姿を、
氷彫刻の筋目として刻まれた、彼らの生き様を、
より多くの方に知ってもらいたい。

そして、できることなら
この会場に足を運び
実物の氷彫刻の迫力と彼らの気迫を
ご覧頂きたい。

こうして撮影の回数を重ねるごとに
写真では伝えられないことの多さを実感する。

「どうしても実物の氷でなければ伝わらないものがあるんです。
だから、一人でも多くの人に見に来てもらいたいんです」

平田さんの言うとおりだと思う。

彼らの作品の凄さを前にして、
写真というメディアの力も
撮影する私の技量も、あまりにも非力であることは否めない。
だが、こんなブログの記事が世に出ることで
会場に足を運んでくれる人が少しでも増えるなら
私は本望だ。

だからこれからも、氷彫刻に人生を掛ける彼らの姿を
私なりに追い続けていきたいと思っている。

最後に、
今回も素晴らしい氷彫刻を制作された
平田謙三さん、平田浩一さん、
出場チームと大会関係者の皆様、
そして、
この長い記事におつきあいいただいた皆様に
心より感謝を申し上げます。

2015年2月28日

球 わかば





告知

テレビ朝日系列
若大将のゆうゆう散歩
(放送予定日 3月12日(木) 朝9:55~)
に、平田親子が登場するとのことです。

ぜひ御覧ください。

このブログからも写真を提供しています。

関連記事
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『龍』・・・・・・・・・・・2011年 第25回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『DRAGON』・・・・・2012年 第26回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田浩一 肥田野雄紀 氷彫刻 『イルカ』・・・・・・2013年 第27回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『遊泳』・・・・・・2014年 第28回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田謙三 平田浩一 氷彫刻 『2015年 飛翔』・・・・・・2015年 第29回 国宝松本城氷彫フェスティバル
平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』・・・・・・2016年 第30回 国宝松本城氷彫フェスティバル





 
by TamaWakaba | 2015-02-27 22:08 | 氷彫刻 | Trackback | Comments(8)
 ▲ 
 ▼ 

長野灯明まつり 2015

長野市 善光寺 「第十二回長野灯明まつり




SF善光寺


a0155104_1536496.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1




a0155104_15355849.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15355315.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15354257.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15353347.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15352697.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15351821.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15345859.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15345223.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15341679.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15341032.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_1534110.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15335318.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15334670.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15333816.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15332685.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_1535997.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15331824.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15331096.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_1533133.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_1532843.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_153239.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_153207.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15315813.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15315591.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15315057.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15314895.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15313023.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15314619.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15314273.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15313721.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15313369.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15312639.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15312426.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15312093.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1





a0155104_15312879.jpg
EOS5D Mark III + EF35mm F1.4L USM + ブラックミストNo.1








この「灯明まつり」、主催者側の打ち出すコンセプトとして
『長野オリンピックを象徴する五色の光で「平和の灯り」を世界に向けて発信』
というのが大々的に掲げられてるわけですが、
なんというか、あの原色の光で闇に浮かび上がる大伽藍はどう見ても妖しすぎるわけです。

はっきり言って、
ライトアップされた善光寺は
おどろおどろしい「大魔王の住まう闇の神殿」にしか見えません。

そう考えたら頭の中で、
「宿屋から出発して、大魔王を倒して帰ってくる」みたいな
RPG的ストーリーが即座に展開して、
今までになく楽しく撮影できました。

写真もそんな遊び心で組んであります(^^ゞ






氷彫フェス記事の告知ばかりで恐縮なのですが、
ちょっと多忙で手が回らず、
アップが遅れそうです。
(14日以降、長期外出の予定あり)
もう、ここまで引っ張ってしまいましたので
忘れられた頃にドーンと出したいと思います。
重ね重ねスイマセン。



.
by TamaWakaba | 2015-02-11 16:05 | 善光寺界隈 | Trackback | Comments(0)
 ▲ 
 ▼ 

冬のニホンザル

長野県大町市


まだ遠い春に向かって

冬を耐える彼ら。

こんな春めいた日には

陽だまりでのんびり過ごそう。


a0155104_2244419.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM





a0155104_22433999.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22433651.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22433328.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_2243299.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22432663.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22432389.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22432066.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22431774.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_2243392.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_2243191.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22425822.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22425110.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_22424876.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM





a0155104_22431082.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM






a0155104_2243512.jpg
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM




今年は豪雪で、群れの移動パターンが例年と変わってしまったのか
なかなか会えなかったんですが、
ようやく今年も彼らを見つけました。

彼らのふてぶてしいほどの人間臭さは
撮り手を夢中にさせますね。



サルに繋いでもらいつつ、
氷彫フェス記事の執筆を続けております。

故あって、14日までには絶対にアップします(汗)。



.
by TamaWakaba | 2015-02-06 22:58 | ニホンザル | Trackback | Comments(8)
 ▲ 
  -    -  



基本的に何でも撮ります。     ※スマホの方は「PC版表示」での閲覧をおすすめします。
by 球わかば

球わかばプロフィール
リンクについて
著作権及び写真の使用
メディア掲載履歴

最新の記事

イチョウの樹の下で
at 2017-11-17 15:50
上田城跡公園紅葉
at 2017-11-15 00:02
もみじ湖(箕輪ダム)紅葉
at 2017-11-13 13:54
長野市若穂「清水寺」紅葉
at 2017-11-10 23:06
秋光
at 2017-11-06 23:37
名もなきカエデ、雨の紅葉
at 2017-11-04 00:52
ツタウルシの紅葉
at 2017-10-31 01:41
リゾナーレ八ヶ岳 ハロウィン..
at 2017-10-26 00:33
雨垂れ
at 2017-10-23 10:01
奥裾花自然園紅葉
at 2017-10-20 00:21

記事ランキング

カテゴリ

全体
氷彫刻
花火
家でグルメ
外食日記
旅先見聞録
若一王子神社
松川響岳太鼓
イルミネーション
その他の祭・イベント
ニホンカモシカ
安曇野の白鳥
ニホンザル
アマガエル
名犬モモ
イヌ
ネコ
その他の生きもの
飛行機(軍用機)
飛行機(民間機)
夜空・星景・月
空・雲・天候
奈良井宿・妻籠宿
善光寺界隈
戸隠神社
その他の建造物・神社仏閣
自宅にて

梅の花
菜の花
スイレン
ハスとアマガエル
紅葉
その他の草木花
海辺の風景

自然風景その他
街の風景その他

物撮り
組写真的な組写真
ごあいさつ
お知らせ
レンズレビューと作例
その他
仁科濫觴記
写真考

未分類

タグ

(40)
(21)
(11)
(10)
(6)
(5)
(3)
(3)
(3)
(2)
(1)
(1)

以前の記事

2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月

最新のコメント

sarutvさん あり..
by TamaWakaba at 16:09

ブログトップ | ログイン